講演会では大人から子どもにまで絶大な人気を誇り、講師派遣や講演依頼のお問合せを多数いただく人気講師のさかなクン。
以前にも紹介しましたが、昨年放送されたTBS「金スマ」スペシャルで紹介された“いじめ”に対するメッセージは大きな反響を呼びました。
本日紹介するのは、さかなクンが朝日新聞のいじめに関する連載記事に寄せた名文「広い海へ出てみよう」に、自身の体験を追記して書籍化した『さかなのなみだ』です。
さかなクンのトレードマークといえばハコフグの帽子ですが、それには小学校3年生の頃の水族館での思い出が込められています。
「泳ぎ方がぎこちなくて、大きなブリにぼーんとぶつかって飛ばされても、めげずに一生懸命泳ぐんです。それがハコフグでした。自分はおっちょこちょいで、ダメなところだらけでしたが、『ハコフグみたいに一生懸命生きよう!』と勇気が湧いてきました」と、後書きの中でさかなクンは綴っています。
さかなクンは小学生のころから、声の高さや話し方を真似されたり、からかわれたりしていたとのこと。
そして、水槽が沢山あると勘違い(笑)して入部した吹奏楽部では、ある友人が、他のみんなから口を聞いてもらえず、いじめを受けているのを目にします。
悲しそうにしている友達を見て、さかなクンは「一緒に海に行こう!」と誘いだし、その子がやすらいだ、やさしい表情になったことが嬉しかったそうです。
「潮だまりで見つけたメジナの稚魚を、15匹ほど家の水槽に入れたことがあります。最初は仲良く泳いでいるのに、成長しだしてから、一匹がすごくいばりだして、別の一匹を集中的にかじったり、体当たりして、攻撃し始めました。いじめられた方は水面ぎりぎりまで逃げるのですが、疲れて水中に降りてくるとまた攻撃される。かわいそうなので、いじめられっ子を別の水槽に出してあげると、今度は別の一匹が攻撃されるんです。
せまい水槽の中では、逃げたくても逃げられない。いじめるほうもきっと、せまい水槽でストレスがたまり、気にくわないのが続くから、ずっとかみつく。広い海にいれば、それぞれの世界で生活できて、長い間いじめたりいじめられることもないと思います。吹奏楽部での出来事も、同じことだと思いました。 今は世界は小さくても、もっと大きな別の世界がある。ぼくは落ち込むことがあると、海に行ったり、お魚に会って、波の音や海や空の大きさ、そして一生懸命に生きているお魚の姿にパワーをいただきます。『海は広いなあ。ぼくが今悩んでいることは、ちっぽけなことだ。またがんばろう』って素直に思えるんです」
子どもの“いじめ”については、今も昔も痛ましい事件が絶えません。
もちろん、大人についても、職場や家庭における様々なハラスメントが社会問題化しています。
自分でも知らないうちに、いつしか加害者側に加担していたという人々も、少なくないのではないでしょうか。
ミラン・クンデラという有名な作家の小説の中に、とある患者が医者に対して、「でも先生、考え方だって人の命を救うことができますよ」と語りかける場面が出てきます。
様々な制約から「小さな世界」でしか生きることを許されず、人知れず苦しんでいる方々、またその周囲の方々には、是非、さかなクンのメッセージが詰まった本書(『さかなのなみだ』)を手にとっていただき、多くの励ましと勇気、広い世界へとつながる何らかのきっかけを得て欲しいと切に思います。