いよいよ二ヵ月後に迫ったアメリカの大統領選。
ヒラリー・クリントン氏が女性初の大統領になるのか、過激な言動で支持を集めるトランプ氏か・・・。
世界経済を牽引するアメリカだけに、その影響は一国にとどまらず、世界中に波及するはず。
そんなアメリカを中心とした世界経済の展望や株式市場の動向に関する講演で最適な講師が堀古英司氏です。
堀古英司氏は東京銀行を経て、ニューヨークでヘッジファンドマネージャーとして活躍されており、2006年には、アメリカで最も優れたアジア系ビジネスマン50人の一人として、アジア・アメリカ・ビジネス賞を受賞されました。
テレビ東京「ニュースモーニングサテライト」や「ワールドビジネスサテライト」をはじめとした多くの情報番組などでもニューヨークから市況を伝えるなど、その的確な分析に定評があります。
その堀古氏が2014年9月に上梓した『リスクを取らないリスク』は、ヘッジファンドマネージャーならではの金言に満ち満ちています。
人間は本来的にリスクを回避しようという性質をもっています。
しかし、リスクを冒さなければリターンを得られないどころか、ゲインしてしまう局面が多々あります。
リスクとは単に「回避しておけばよい」というものではなく、むしろリスクを取らないことの方がはるかに大きなリスクになりえるのです。堀古氏は日本がデフレ不況にあえぐ中、2010年頃の早くから財政再建のためには日銀による国債購入の必要であると訴えておられました。
2013年になって安倍首相=黒田総裁により推進された金融緩和政策が(少なくとも消費増税前までは)一定の成果を上げたのは間違いありませんが、この思い切ったリスクが取られるまでには多くの生命や財産が失われています。
一方、本書を通じて特に印象に残っているのは以下の一節です。
「そもそも投資というのはリスクをともなう行為であり、それなりの覚悟が必要です。人間がリスクを回避したがるものということは、逆に言えば、一人の人間が許容できるリスクの量には限りがあるということです。後になって『実は他にも大きなリスクが存在していた』ということになれば、その人は想定していたよりも何倍ものリスクを負っている状態となり、最悪の場合は資産のほとんどを失ってしまう事態になりかねません。私が普段、投資において絶対のルールとして守っているのは『いかなる場合も退場になってはいけない』ということです」
リスクを取る前に重要なのは、その他のリスクの存在を徹底的に分析し、その対策をとっておく必要があります。
闇雲にリスクを冒すのでは望むべきリターンは得られません。
イタリアの政治家アントニオ・グラムシの言葉に「認識においては悲観的に、実践においては楽観的に」という名言がありますが、リスクテイカーにはそれくらい冷静な状況判断が必要なのだと思います。
本書では、経済が「リスクの担い手」によって成り立っていることを示したうえで、格差や為替、年金など我々の生活に今後想定される様々なリスクについて分かりやすく解説されています。