前回、ヒットを生み出すアイデア発想法をご紹介したUSJの森岡毅氏講師派遣のお問合せを多数頂いており、とても魅力的な方なので、今回は著書『USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?』をもとに、その仕事術をもう少し掘り下げてご紹介させていただきます!

森岡毅氏はシャンプーなどを扱う外資系企業から、ヘッドハンティングをされる形でUSJに入社されました。
しかし、当時のUSJは、集客鈍化の理由を不祥事のせいにして、潜在需要の大きさを阻害している構造的な理由について考えられていなかったそうです。
そこで森岡氏は、会社の課題を整理するとともに、それを打破して会社を飛躍させる成長戦略の仮説を打ちたて、リスクをともなう、しかし構造的な制約から大きなジャンプが必要だと判断します。
そして、限られた経営資源を消費者価値の向上に正しくシフトさせるために、需要を推定する数学的試算を用い、どうすれば投資配分とキャッシュフローの健全な持続が可能になるかのシミュレーションを重ね、様々な需要予測法を走らせます。

そこで、会社の収益構造を変革させるゲームチェンジャーの段階的展開として、設備投資の制約下でもキャッシュフローを繋ぎ会社を成長させる3段ロケット構想を打ち立てました。
①ファミリーの取り込み
②関西依存の集客構造からの脱却
③科学的経営管理法に基づく運営のノウハウを複数の場所に展開

これには、最初から段階を明確な戦略として強く意識して経営資源を配分できるかが重要となります。いかに人・時間・金を効率よく集中するとともに、いかにゲストの満足度(GS)を高く担保できるかが鍵となりました。

森岡氏はまず、長期的に生存可能なようにするブランドの再定義を行い、コンテンツを「映画」だけに絞るのは不必要に狭すぎると判断します。
東京ディズニーランドとの「差別化」のため、映画に特化したほうが良いという意見もあったそうですが、実際のところ、地理的要因によって集客の競合性は10%ほどでしかありません。
業界のガリバーであるTDRと差別化するために、USJが関西であえてニッチ戦略を取るのは愚の骨頂と森岡氏は言い切ります。
そこでコンテンツを映画に限らず、集客につながる最高のブランドであることに加え、USJならではの負荷価値が乗せられるかという観点から慎重に吟味していくことになりました。
そうして、狭い特定のファンベースにもかかわらずものすごいファン数を持つワンピース等(エヴァンゲリオン、進撃の巨人、モンスターハンター…)とのコラボが生まれたのです。

また、キャピタル(設備投資費用)を使わないアイデアとして、人を使う「ハッピーサプライズ」(何気なく仕事を行っている様々なスタッフが急に連携して見事な踊りやショーを披露するアトモスフィア・エンターテイメント)を強化し、これも見事に成功させました。

しかし、年間予算の5倍もの大金を投じて作ることになっていたハリーポッターまでの失敗できない道のりの上で、「震災」による自粛の波がUSJを襲います。
こうしたエンターテイメント自粛の流れを断ち切るカンフル剤としてのアイデアを必死に考えた森岡氏は、大人一人につき子供一人を無料とする「キッズフリー」を採用します。
USJ内部には、何も一気に無料にするのではなく、10%オフや半額という意見も出たそうです。それでは弱いと見た森岡氏は、自粛に傾いた大きな流れを断ち切るべく、「無料」のインパクトにこだわり、見事に客足を回復させたのです。

森岡氏はアイデアを考えるとき、まず徹底的に吟味して定め、その次にアイデアが満たすべき必要条件を一番時間をかけて考え、その必要条件を組み合わせ、より条件を絞り込んで、思いつくべきアイデアの輪郭をできるだけ明確に絞り込んでゆくと言います。具体的なアイデアを考え始めるのは最後の最後。そして、価値を生み出すアイデアの切り口は、経験上ほとんどの場合は消費者理解のなかに埋まっているとのこと。

マーケティング本部長として多くの社員の命運を預かる立場として、森岡氏は、何が起こるかはわからないものの、周囲には断定的でポジティブなメッセージを発信し、皆が自信を持ってやっていけるように心がけているのだとか(腹の底の弱気は悟らせない)。
そこには、かつてシャンプーを扱う外資系企業で、失敗すると分かっていながら上司の指示に従って部下を動かしてしまった苦い経験が活かされているのだそうです。

★前回記事:USJをV字回復 マーケッター・森岡毅氏の発想法